洞爺湖在住の銅版画家・石井千晶さんの銅版画の世界に惹かれた仲間達が集まり、作品集を製作しました。
2023年に洞爺湖芸術館で「風の記憶」という同タイトルの大規模な展覧会が開催された際、展示作品の選出と展覧会の会場設営のために、何度も千晶さんのアトリエを訪れ、過去の作品を含めた膨大な量の銅版画の原画作品を見せて頂いたことが、この作品集を製作する大きなきっかけとなりました。
千晶さんご本人にお会いすると、明るく朗らかで、ぱっと花が咲いたような温かい話し方とよく笑う姿に、作品の世界観とご本人の雰囲気にギャップを感じる人も多いのではないかと思います。
けれど、同時に千晶さんのなかにこんなにも豊かな世界が横たわっていて、たった独りで銅版画に向き合っている時にだけ作品世界(きっと別次元)と繋がって、儚く消えていきそうな夢の断片を無心にかたちに残しているのかと思うと、銅版画家というよりも錬金術師や孤高のシャーマン、巫女さんのように見えてきます。
千晶さんと出会って初めて、銅版画が銅版を傷をつけるように絵を描き、金属を腐食させて版の変化を待つなど、幾つもの制作工程を重ねて、大きくて重い機械のハンドルを回してやっと刷り上がることを知りました。木工や陶芸など他の工芸だってそうだろうと思うかもしれませんが、小柄な女性がこれを毎回一人で?1枚を刷り上げるまでに、こんなに何段階も工程を踏むの?と、驚きました。
そして、制作工程を知った上で千晶さんの作品を見れば見る程、今までどんな風に制作をしてきたのか、どんな転機があって、作風が変わって来て今に至ったのかにも、とても興味が湧きました。
制作の過程において千晶さん自身の実生活にどんなことが起きていたか、詳しいお話を聴くことが出来て、そのインタビューを元に作品を大きく3つの時代と章に分けて、広島時代、札幌時代、洞爺に移り住んでから今に至るまでの作品として掲載しています。そして巻末にはアーカイブとして、千晶さんのプロフィールと展示歴、制作現場の写真と有志による寄稿文も収録しました。
千晶さんのアトリエに眠っていた膨大な作品群は、そのまま千晶さんの50年分の創作の軌跡であり、その軌跡を洞爺に住む仲間達と一緒に辿り、このような作品集を作るチームに参加出来て本当に嬉しく思います。
drop aroundは、23年の洞爺湖芸術館での展覧会のフライヤーやポスター制作に続き、この作品集のデザイン、アートディレクションで参加させて頂きました。
この作品集の最大のデザインポイントは、なんと言っても表紙が黒であること。
黒気泡紙というマットで厚みのある特殊紙に、特色インクの銀で「記憶」という作品を刷って頂きました。本文の紙も何度かの刷り出しと用紙の変更を経て、作品の細部がよく見えるページになったと思います。印刷と製本はイニュニックさんにお世話になり、細かな要望に応えて美しい印刷を叶えて頂きました。
是非、多くの方に手にして頂きたい作品集です。
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P112/210×257mm
発行:2025年1月8日 初版
企画・編集 :
新井知子(toita)
新井祥也(野生の学舎)
佐藤志保・佐藤宇宙(SATO CRAFT COMPANY )
写真:
作品 高田修
風景 新井祥也
デザイン:
青山剛士・青山吏枝( drop around)
翻訳 :
Phill Charbonneau
佐藤志保(SATO CRAFT COMPANY )
印刷・製本:
イニュニック
発行所:toita(instagram:@toita.toya)